「LAで深夜の大暴走」の巻 パート1

 7月下旬のある日のこと。わたしはウツミンと二人で、曇天のLA空港にいた。LUNA SEAとのロンドン旅行から帰ってきて、3日間日本にいただけで、再び10時間飛行機に揺られてLAにやってきたわたしは、ダブル時差ボケでヨレヨレ。対するウツミンも、出発の前日までHIDEとTUSKのフィルム「Seth et Holth」の最終編集作業のため、徹夜の連続でヨレヨレ。わたしは、TOSHI、PATAへのインタビュー&東京ヤンキースの取材のため、ウツミンは「Seth et Holth」の完成版をHIDEに最終チェックしてもらう&諸々の打ち合わせのためLAにやってきたのだ。しかも、LA行きの日程がはっきり決まったのが、出発の2日前という慌ただしさ。それでもわたしは一週間ほどLAに滞在するため、一応海外旅行者っぽくスーツケースなんぞをゴロゴロ転がしていたが、ウツミンはたった3日の滞在のため、荷物は小さなボストンバックひとつ。なんでも、中身は着替えと洗面用具が入っているだけなそうな。楽しそうな表情の一般旅行者に交じって、ヨレヨレコンビのわたしたち二人はどう見てもあやしかったに違いない(笑)。

祝「Seth et Holth」完成

 まずホテルにチェックインして、すぐにHIDEのアパートメントに出かける。ちょうどHIDEは部屋で曲作り真っ最中だったが、ヨレヨレコンビの訪問を快く迎えてくれた。しばし雑談をした後、早速「Seth et Holth」完成版を見ることにする。サントラの音入れ作業は、HIDEがLAに戻る直前に終わっているのだが、残りのSEやナレーションの録音、CGの最終作業などが、その後に行われ、その完パケをチェックしてもらうためにここに来たのだ。

 部屋を暗くして、その場にいた全員で即席試写会。HIDEは真剣な表情で画面を見つめている。約45分のビデオが終わり、数秒の沈黙の後、HIDEが

hide「いいじゃん!」

と一言。もし、まだ手直しが必要な場合は、国際電話で日本に指示を出したり、急遽LAでスタジオを借りて録り直すことも考えていたウツミンは、このHIDEの言葉にほっと胸をなでおろしている。

hide「やっと出来上がったね〜。苦節約一年」

というHIDEも、ようやくこの作品が仕上がったので本当に嬉しそうな顔をしていた。

 HIDEの部屋をでた後、わたしたちは東京ヤンキースがレコーディングをしているスタジオに顔を出した。しかし、メンバーはちょうど夕食に出ているという。しばらくミーティング・ルームで待たせてもらったのだが、彼らはなかなか戻ってこないので、今日はおいとますることにする。明日は朝8時から、東京ヤンキースの撮影に同行することになっているからだ。その晩、わたしもウツミンも、ホテルに戻った途端にバタン・キュウだったことはいうまでもない。

 さて、その翌日、ヤンキースが泊まっているホテルのロビーに行くと、すでに準備をすませたメンバーが笑顔で待っていた。TDも快調に進んでいるそうで、彼らはとても生き生きとしている。この日のロケの様子は本誌先月号でじっくり報告しているので、その記事を読んで欲しい。AMIちゃん曰く、「地獄巡りのロケ」の最終地点は、ダウンタウンにある陽気なカメラマンの自宅兼スタジオだった。倉庫を改造した広々としたそのスペースを、メンバーは

「いいな〜、俺もこういうところに住みたい」

と、羨ましそうに見ている。そこで個人ショットの撮影が始まった時、Xのスタッフから

「今日の9時からTOSHIの取材が出来る」という連絡がはいった。なんでも昼間から連絡をくれていたらしいのだが、わたしたちが早くからホテルを出てしまっていたため、あちこちを探していたという。時刻は既に8時半。残念ながらヤンキースの最終ショットを見ることは断念して、急遽タクシーでホテルに戻る。それから借りているレンタカーに乗り換えて、わたしたちはロス郊外にあるXのスタジオに急いだ。

 スタジオの中では、ちょうどHIDEが機材のサウンド・チェックをしていた。しかしそのスタジオの広いことといったら……なにしろ、ちょっとした体育館くらいの広さがあるのだ。マイケル・ジャクソンやマドンナも、ツアー前にこのリハーサル・スタジオを使っていたという。

大島「さすがX、やはりスケールがでかい!」

と関心していたら、スタッフが「ART OF LIFE」のテープを持ってきてくれた。わたしはまだ完成したこの曲を聴いていなかったので、取材前に聴かせてもらうことになっていたのだ。別室で約30分のこの大作を聴いていると、途中でドアが開いてTOSHIが入ってきた。わたしとウツミンに軽く手で挨拶した後、ひょいとテーブルの上に座って、彼も一緒に曲を聴き始めた。体で軽くリズムをとっている。そして、聴き終わったTOSHIは、

toshi「う〜ん、感慨深いものがあるな」と、ポツリ。

それから約2時間に及ぶ取材が始まった。しかし、この時のTOSHIは、本当に自信に満ち溢れた良い表情をしていた。辛かった頃のことを淡々と語っているときも、壁を乗り越えて更に新しい目標について語っているときも、瞳がきらきらと輝いている。その様子から、彼の現在の状況が、非常に良いのだということを感じとることが出来た。今までに何十回もTOSHIにインタビューしてきたが、この時の彼が一番いい顔をしていたと思う。

イラスト・ひーchan