ロックンロール日記
hideのいた風景
SHOXX2000年9月号よりその2
 おでんの店「R」も、hideのいきつけの店だった。ここはそれほど古くはないけれど、やはりスノッブな人たちの集まる場所として有名なところである。コンクリートの打ちっぱなしのビルの地下にあり、いわゆる和風なおでん屋のイメージとはまったく違う、かなりハイセンスな店だ。どういういきさつでこの店に来るようになったのかはよく覚えていないが、LAに住んでいる国際的なSFX&特殊メイクアーティストのマッド・ジョージさんとhideの対談を行ったのはこの店だ。近所のスタジオでの撮影が終わり、静かだからという理由でこの店の個室で対談が行われたのだ。この時、スタジオにSUGIZOが遊びに来ていて、対談が終わったあとに一緒に飲もうと、この店にもやってきた。それで、二人が対談をしている横で、なぜか他の人とラーメンの話をして盛り上がっていたのだが、途中でhideに「SUGIZO、声がでかすぎるよ」と怒られるシーンがあった。たしかにあとで取材テープを聞いてみたら、テレコの前にいたhideとジョージさんの声よりも、遠くにいるSUGIZOの声のほうが大きく録音されていて、大笑いしたのを覚えている。その後、SUGIZOは声が大きいという話になると、いつも「hideさんに怒られちゃいましたからね〜」とこの時のエピソードを話していた。
 この小さな畳敷きの個室をhideはとても気に入っていて、この店に来ると必ず「あの個室は空いてない?」と、店員に尋ねていた。残念ながら空いていなくてテーブル席に座ることになっても、「空いたらすぐ教えて。移動するから」というほどだった。他に6人くらいしか入れない半個室のようなスペースもあって、彼はそこも結構好きだった。その頃は既にXのhideとしてかなり有名になっていたので、他人の視線がない場所のほうがリラックスできたのかもしれない。彼がこの店で飲むのは、やはり日本酒だった。特に大吟醸に凝っていて、一度、店にある大吟醸をすべて飲み尽くしてしまったことがある。その時は4〜5人で飲んでいたのだが、もう大吟醸がなくなってしまったと聞くと、hideは「よぉぉし、じゃあ、これから大吟醸を探しに旅に出るぞ!」といって、深夜の西麻布を大吟醸求めてさまよったものだった。
MEMORIES
 大吟醸といえば、交差点の近くの和食屋「C」も忘れることはできない。ここはそれほど有名な店ではなくて、多分、何かのきっかけでふらりと入ったのだと思う。それで、いつものように大吟醸を頼んだのだが、出されたお酒をhideはものすごく気に入った。銘柄名をどうしても思い出すことができないのだが、他の店であまり見かけることのない大吟醸で、そのお酒を飲むためだけにこの店にもよく通った。西麻布らしくそれなりにお洒落なお店ではあったが、それほど広くもなく、彼がこの店に通った理由はただただその大吟醸だけにあった。ある日、いつものようにこの店で大吟醸を飲んでいた時、何かの話の流れで「明日、温泉に行こう!」ということになった。ちょうどその頃、hideの周りでは温泉が流行っていて、偶然、その場にいた数人が揃って翌日が休みだったのである。それで、hideが「SUGIZOも呼ぼう」といいだして、夜中の3時頃に電話したら、SUGIZOも翌日はテレビの仕事だけで、夕方前には終わるというので、翌日の温泉行きが決行されたのである。今、思えば、この突然の温泉行きが決まったのは、この店がビルの2階にあったからかもしれない。前述の2軒は地下だったから、店から電話はかけられなかったのだ。
そんなことから、よくこの店にいるhideから夜中に呼び出しの電話がかかってきた。わたしたちはそれを「悪魔の電話」と呼んでいたのだが、とにかく相手の都合なんてお構いなく、「来る」という返事をするまで電話を切ってもらえない。「原稿を書いているから」とか「明日、締め切りだから」といっても絶対にあきらめず、こちらの言葉も聞かずに最後は「じゃ、待ってるから」と切られてしまう。しかも、そのあとすぐにまたかかってきて、「あれ、まだいるの?」といわれる始末。hideだけじゃなくてその場にいる人全員が交代で電話をかけてくるものだから、結局は根負けして行く羽目に陥ることになる。そんなにひっきりなく電話がかかってきたら、とても原稿なんて書いてはいられないからだ。とはいいつつ、わたしも店にいる側になると、hideと一緒になって呼び出し電話チームの一員に加わった。つまり、「悪魔の電話」は、ある種仲間内のゲームのようなものだったのだ。そういえば、わたしにかかってきたhideからの悪魔の電話に、母が出てしまったことがある。その時、彼は非常に礼儀正しく、母に「夜分遅くに失礼します。暁美さんはいらっしゃいますか?」と尋ねたという。今でも母はhideのことを、「あの電話でとても礼儀正しかったhideちゃん」と呼んでいる。
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MEMORIES
大島暁美のロックンロール日記