PART1 PART2 PART3

 さて、すっかり夕闇が迫る頃、JUNの病室をあとにしたわたしは、その足で浦安へと向かった。テレビ番組「ミュージック・ステーション」の特別生ライヴに、Xが出演することになっているからだ。なんでも他の出演者は1曲だけなのに、彼らは、「TEARS」と「X」の2曲を演奏するとか。生のXの演奏を見るのは久しぶりのことである。しかしっ、年末の都内は鬼のような交通渋滞で、普段なら10分くらいの道路が約1時間もかかる。予想以上にJUNの病室に長くいてしまったことと、想像をはるかに上回る交通渋滞で、わたしがXの楽屋に着いたのは午後7時近くのことだった。もうすぐ出番ということで、HIDEの準備はほとんど整っている。リハーサルの都合で会場入りが早かったためPATAはビールを飲みながらソファでゴロゴロ。HEATHはなんと熟睡していた(笑)。他の部屋で準備をしていたTOSHIYOSHIKIも、既にスタンバイはOKのようである。今日はちゃんと会場で席に座ってライヴを見ようと、早めに楽屋を出ると、廊下の向こうからやってくるのは松田聖子ちゃんではないか。おお、きれいっ、細いっ! 先月号に引き続きテレビ番組の現場でタレントさんに会うと、ついミーハーになってしまうわたしであった(笑)。
 
  しかし……会場に続くホテルのロビーを歩いていると、どうもいつもと勝手が違う。ここはディズニーランドに隣接しているので、一年中イルミネーションがきれいで万年クリスマス状態なのであるが、それにしてもやけに華やかだ。行き交うのもやたらドレスアップしたカップルばかり。そして、ホテル正面に飾られた巨大なクリスマスツリーを見て、わたしははたと気がついた。そぉだ、今日はクリスマス・イヴなのだ! こーゆう仕事をしていると、クリスマスも正月もあんまり関係ないのだが、ふとそういう事実を目の前に突きつけられてしまうと、ちょっと寂しいものがある。
「クリスマスだからって大騒ぎするなんて、子供のすることよ」
と強がりながらも、やっぱりまわりのカップルがうらやましい。しかし、不況、不況と言われながらも、ここだけはそんなこと関係ない世界のようだ。Xのスタッフもホテルのレストランでちょっと腹ごしらえをしようと思ったら「今日は予約がないと、入れません」と、どこのレストランも断られたとか。あ〜あ、みんな、優雅じゃのう……。  
 
  そして、無事に番組が終わったのが午後9時、楽屋でメイクを落として、みんながそろそろ帰ろうかという雰囲気になってきたとき、誰かが窓の外を見て、「すごい渋滞だ!」と叫んだ。驚いて外を覗いてみると、ディズニーランドの駐車場からずーっと向こうの道までぎっしりと車のテールランプの列。しかも、それがぴくりとも動かない。そぉかぁ、みんなイヴの夜をディズニーランドで過ごして、閉園とともに帰路についたというわけね。「どうやって帰ればいいんだ!?」とスタッフは表情がひきつっている。なにしろここは、陸の孤島といわれている浦安。電車の駅までだって、タクシーに乗らなければたどり着かない。しかもフロントに問い合わせたところ、そのたのみの綱のタクシーも出払ってしまってほとんどいないし、無線で呼ぶこともできないという。
 
  その時、45分も前に車で会場を出発したTOSHIから、連絡が入った。なんでも、車がほとんど動かなくて、まだディズニーランドがすぐ近くに見えるところにいるのだそうだ。この情報を聞いて、一行はなるべく早く東京に戻るということを、断念してしまった。そして、時間つぶしのために、ホテルの最上階にあるバーへと出かけることにした。カップルが肩をよせあって飲んでいるバーの中、隅っこの席で15人くらいまぁるくなって飲んでいたわたしたち。「クリスマスの夜なのに、俺たちこんな所で何やってるんだろう」と、溜息をつく人も一人や二人ではない。でも、ちょうどその席は窓際で、外の様子が良く見える。相変わらず動かない車のテールランプが巨大なイルミネーションのように見えて、ちょっぴりロマンチック。「これは、かわいそーなわたしたちに、神様がプレゼントしてくれたクリスマスツリーかもしれないね」などとお互いに慰めあいながら、わたしたちはグラスを傾けていたのであった。  
 
  さて、その大渋滞がようやく解消したのは、午前1時過ぎ。数台の車に分乗して東京に戻ったのだが、PATAHEATHが乗った車はそのまま、銀座にあるラジオ番組のスタジオに行ったという。車の中でラジオをつけたら、ちょうどKYOちゃんの番組が生放送の真っ最中だったので、いきなり乱入してしまったらしい。番組には既にYUKIHIROSHINがゲストできていて、そこに酔っ払った二人が殴り込んだものだから、相当な盛り上がりを見せたということだ。この時、わたしは現場にいなかったので、詳しいことはわからないのだが……。そして、番組が終わったあと、当然のようにKYOちゃんは二人に拉致されて、飲み屋へと連れ去られたのだそうである。
イラスト・ひーchan