PART1 PART2  PART3
 さて、それから二週間後の94年最初の金曜日。夜11時頃、「いやだけど、そろそろ原稿でも書こうかな〜」とワープロのスイッチを入れた瞬間に、電話のベルが鳴った。受話器を取ると
「松本です。今、PATAとHEATHと飲んでるんだけど、お呼びです。これからAMIちゃんとKINちゃん(TAKASHI)も来るから。じゃ、早く来てね」
HIDEが一方的に話して電話は切れてしまった。ああ、年が変わったというのに、相変わらずゴーインなお誘いの電話……。それで、その飲み屋に行ったら、つい数日前の東京ドームの打ち上げにいたメンツが、ずらっと顔を揃えている。相変わらず友達を呼ぼう作戦は続いていて、PATANORIの家に電話をして「来なさい」などと、いっている。
「あと。呼べる人誰がいるかな?」
「あ、KYOちゃん!」
T「KYOちゃんは、今、ラジオの生放送中だから、家にはいないよ」
「それなら、俺たちがスタジオに行っちゃおうよ!」
K「え、でも、それは……」
「KYOちゃんの番組に乱入するのに、賛成の人!」
HIDEのその声に、その場にいたミュージシャンもスタッフも全員が手を挙げた。たった一人、KINちゃんだけを除いてね(笑)。それから、善は急げとばかり、全員がスタジオへ急行。一時間ほど前に寝たばかりだというNORIのうちに寄って、叩き起こされた彼も無理矢理メンバーに加えられた。 行く途中、KYOちゃんがラジオで「今年のお正月は静かだった」といってるのを聞いて、みんな「これから何が起こるのかも知らずに」と、笑いをこらえきれない。  
 
  さて、その番組のスタジオは道路に面した部分がガラス張りになっていて、外にはKYOちゃんの姿を一目見ようというファンが、夜中にもかかわらずたくさん集まっている。その中をHIDEちゃんを先頭にしたミュージシャン一同が横切り、ガラスにベタッと張り付いて中のKYOちゃんの姿を覗き込んだ。ちょうどトークの部分だったのだが、そこはさすがKYOちゃん。吹き出すこともなく、「なんだか騒がしいお年賀が、届いたみたいだな」と、さらりとかわしている。そして、曲が流れている間に、スタジオのブースから出てきた。控室ではみんなが早くも持参した日本酒を飲み始めていて、KYOちゃんもそれにはびっくりした表情。
K「どうしたの、みんな」
「居酒屋でKYOちゃんのラジオをきいていたら、KYOちゃんがひとりですごく寂しそうだったから、俺たちが行って盛り上げなくちゃと思ったんだ」
K「いったい、何の集いだったの?」
「KYOちゃんのラジオを応援しに行く集い。ねぇ、押し掛けて来ちゃって迷惑だった?」
K「いや、迷惑って事はないんだけど……。嬉しいよ」
「迷惑だったら、迷惑って言ってね。俺たち、すぐ帰るから」
  このHIDEちゃんのすねすね攻撃にはKYOちゃんも何も言えず、結局、押し掛けた総勢6人のミュージシャンは、かなり強引に番組に出演してしまった。出演時間は5分くらいと短かったが、この時の会話はかなり笑えるものだった。だってKYOちゃんが「今年の抱負は?」なんて真面目に話をフッているのに、みんな「少しでも多く、KYOちゃんと一緒にいたい」とか「一回でも多く、KYOちゃんのラジオに出演したい」とか、そんなことばかり答えているんだもん。
 
  この時の放送を聞いてた人は、かなりラッキーだったと思うよ。だって、すごく豪華なお年賀プレゼントだもんね(KYOちゃんは、大変だっただろうけど……笑)そして、この日もKYOちゃんはみんなに拉致されて、明け方の居酒屋へと消えていったのだった。
イラスト・ひーchan