SHOXX1999年5月号 その2
hideのエピソードとして忘れられないものの一つに、「無言激ロケ前夜秘話」というのがある。これはあまりの壮絶さに今まで封印されていたものなのだが、第一の当事者である星子編集長がHOT WAVEスペシャル「HIDE FOREVER」の中で自らも語っているので、勝手に封印が解かれたと解釈させてもらおう。多分、わたしもこの話は今までどこにも書いていないように思う(もし、どこかに書いていたら、ごめん。なにしろ彼のエピソードは多すぎて、どこに何書いたか記憶が定かでないのだ……笑)。
星子さんとhideがミュージシャンと編集者という垣根をこえて、奇妙な友情で結ばれていたのは有名な話。多くのミュージシャンから“オヤジ”と慕われている星子さんだが、わたしの記憶によれば最初に星子さんを“オヤジ”と呼びはじめたのはhideだと思う。「無言激」はhide自らが星子さんに企画を持ち込んだ写真集で、1章ごとにテーマを決めて作りこんだ写真を撮り、それを一冊にまとめた力作である。その撮影の打ち合わせ中、hideが「温泉のあるところに行って、ロケしよう!当然、泊まりね」といいだした。もちろん、目的は温泉一泊旅行という彼の下心は丸見えである(笑)。そして、一行は真冬のある日、砂丘でロケをするという名目で、その近くにある温泉地へと旅だった。 宿についてすぐに大宴会が始まり、全員が浴衣姿で飲みまくり。hideは行きのバスの中から、「今日はオヤジをつぶす」と目を輝かせており、その罠にハマった星子編集長はかなり早い時間に酔っ払って、とっとと自分の部屋に戻ってしまった。ところが、それが面白くないhideは、「寝てるオヤジを襲おうぜ」といいだした。そして、自ら偵察に行って、星子さんがお風呂に入っていることを察知、小躍りしながら戻ってきた。「お風呂場を襲撃して、星子さんの髪を金髪に染めてしまおう」といい、その場にいたスタッフ全員に「きみはドアを開ける係。きみは髪を染める係」と、テキパキと役割分担をしている。ちなみに、その時、わたしはビデオカメラを回す係だった。こういうときの彼は、本当に生き生きとしていて、ものすごく楽しそう。よく「子供みたいだった」と彼を評していう人がいるが、みたいなんて生やさしいものじゃなく、あれはまさにいたずらっ子そのものだ。 |
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そして、hideのたてた綿密な計画どおり、お風呂場にいた星子さんを襲撃した一同。気分よくお風呂につかっていた星子さんは、突然、ドカドカと風呂場に進入してきた人々を見て仰天したそうだが、酔ったせいで頭にかけられたカラリング剤をシャンプーと勘違いし、自分で髪になじませてしまった。その一部始終をうしろから指図していたhideは、もう大喜び。こういう風にみんなを上手く動かすのが得意な彼は名プロデューサーでもあり、抜群のストーリーテラーの才能もあったといえるかも。 さらに、そのあと、hideは星子さんの下着を、こっそり隠してしまった。ようやくお風呂場での大騒ぎが一段落したあと、星子さんが服を着ようとすると脱いだ場所にあるはずのものがない。一生懸命服を捜す星子さんに向かって「オヤジ、何、捜してんの?俺も一緒に捜してやるよ」と笑いを堪えて声をかけるhideは、子供を通り越してアクマくんそのものだった(笑)。翌朝、精算をしようとフロントに行った星子さんに、ホテルの従業員が「これ、『大切なものだから、明日の朝まで預かっておいてくれ』っていわれたんですけど」と手渡した袋の中には、いくら捜しても見つからなかった星子さんの下着が入っていたそうだ。もちろん、袋に入れてわざわざセロテープで封をして、真夜中にフロントに持っていったのはhide本人だったという。 そんなこんなで怒涛のような一夜を過ごした撮影隊だが、一応、前ノリした理由は「朝の砂丘で撮影したいから」なのだ。ということで、早朝からロケは敢行されることになる。一睡もしなかったhideはヘアメイク中に居眠りをしてしまうこともあったが、いざカメラの前に立つとまるで別人のよう。撮影に集中するあまり蟻地獄のような砂丘の底に転がり落ちたり、極寒の海の中に入ってしまったり、その熱の入り方は尋常ではなかった。ほんの数時間前まで星子さんにいたずらして、「えへへ……」と笑っていた人間と同一人物とはまったく思えない。本当にオフとオンの切り替えがものすごくハッキリとできる人なのだ。 |
アーティストと呼ばれる人たちは多かれ少なかれ、普段の自分とアーティストの自分の二面性を兼ね備えているものだが、hideはとくにその差が激しかった。メイクをして衣装を着てからも、楽屋にいる時には普段と同じようにスタッフにジョークを飛ばしている。それが、いったん、スポットライトを浴びたり、カメラのシャッターが動きだした途端、瞬時にしてロック・スターの表情に変わるのだ。そんな時の彼のまわりには、気軽に声をかけられない強烈なオーラのようなものが漂っていた。でも、北風が吹く中、鬼気迫る撮影が続く傍らで、星子さんの髪が金髪だったのは、なんだかとてもおかしな光景だった。なんと、彼はこの時まだ自分の髪が金色に染まっていたのを知らなかったのだ。翌日、会社に行って上司に「なんだ、その髪は」と怒られて、初めて自分の異変に気づいたとか(編集部星子注:んなわけねーだろ!!当日夜、必死で黒く染め直してるゾ)。雑誌の編集長にそんないたずらをするhideもhideだけど、そんなことされても決して怒らないでニコニコしていた星子さんも相当の強者である。だから、二人は妙に気があって、それからもいじめたりいじめられたりのおかしな関係を続けていたんだろうなぁ……。 |