hideにまつわるエピソードとして、いちばん多いのはやっぱり酒の話だろう。彼が非常に酒好きだった話はもう誰でも知ってる有名なことであるが、わたしも顔をあわせて飲まなかったことはほとんどなかったように思う。デビューしてちょっとたった頃からは、「取材は飲みながら」というのが定番になって、取材時間もわざわざ夜とか、もしくはそのまま飲みに行けるように夕方を設定されることが多かった。それで、hideは、「飲みながら取材されると、ついついいらないことまでしゃべっちゃうから、ずるい」なんていってたが、たまにしらふの時に何か聞こうとすると、「聞きたいことがあるなら、飲み屋で聞け!」とか「俺に何かをしゃべらせたかったら、一升ビンを持って来て一緒に飲んでからにしろ」とかずいぶんヤンチャ坊主のようなことをいって駄々をこねたものだ。もちろん半分冗談なんだけど、たまに真に受けたスタッフがお酒を買いに走っていくと、「ラッキー」って手を叩いて喜んでいた。それだけ好きなお酒だから、もちろん、彼は底なしに近く強かった。自分でもいってたけど、彼はどんな種類のお酒を飲んでもペースが変わらない。つまり度数の低いビールも、度数が高いバーボンも同じペースで飲んでしまうのだ。だから、なるべく度数の高いお酒はゆっくり飲むように気をつけていたけれど、酔ってしまうとそんなことどうでもよくなってしまうのが酒飲みの悲しいところ。彼も夜が更けるにつれて、ビールをやめて日本酒やバーボンに変えることが多かった。 |
それに、彼は飲み始めると長かった。どこかの雑誌のアンケートの「好きな言葉」という欄に、「もう一軒行くっしょ」というひとことが載っていて引っ繰り返ってしまったことがあるが、ホントにこれが彼の口癖だった。彼と一緒に飲んでいて朝を迎えたことは数限りなくある……というより、暗いうちに帰ったことのほうが少ないかもしれない。朝で思い出すのが、公園でLUNA SEAのメンバーと一緒にラジオ体操をしたこと。このころは4時まで飲んでて、まだ飲みたかったが店がやっていなくて、仕方なく自動販売機でビールを買って公園の滑り台とかに乗りながら飲んでいた。そこまでして飲むか!?って感じだけど、酔ってるとそういうのがまた楽しかったりするのだ。 そうこうしているうちにラジオ体操をするご近所の方々が集まってきて、公園の中心で体操が始まってしまった。で、何を思ったのか、そこにいた派手ぇな格好をしたミュージシャンが、全員そのラジオ体操に加わったのだ。あれは、本当に壮観だった。だって、当時はみんな普段からステージ衣装みたいな服を着ていたんだから。それで、ラジオ体操やったんだから、究極のミス・マッチといえるかもしれない。 |
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朝、飲み屋が終わったあとに、hideがよく行く屋台のおでん屋があった。ところが、その店の店主は気分屋で、店が出ているかどうかは行ってみなくてはわからない。屋台だから、当然、電話なんてなかったし(そうだ、その頃は携帯電話なんて、ほとんど普及してなかったのだ……)。しかも、山手線の駅の入り口近くに店を出してるんだから、飲んでると通勤通学に出かける人たちが横を通り抜けていく。彼はよくその店で、「朝日の中、真面目に出勤する人たちの冷たい視線を浴びながら、飲む一杯がおいしいんだよ」などといいながら、日本酒を飲んでいたものだ。 |
ところが、ある日、「今日は絶対にあそこのおでんが食べたい!」といつになく気合いを入れてその店に行ったところ、残念なことにいつもの場所に出ていなかった。でも、なんとなく帰るに帰れない雰囲気のhideご一行様は、何気なくすぐそばにあったコンビニに入った。で、実は、白状してしまうと、わたしはこの時、相当酔っ払っていて、突然、お店の棚にあった苺ポッキーの箱を開けて、「おいしい~」とかいいながら、バリバリ食べ始めたんだって(すぐそのあとにお金払うつもりだったのよぉ)。そしたら、隣にいたhideが「ダメだよ、そんなことしちゃ」といってわたしの手から苺ポッキーを奪い取って、今度は10本くらい一度にバリバリ食べちゃったんだって。あわてた仲間の一人がすぐレジに行ってお金を払ってくれたんだけど、これって一歩間違うとコンビニ強盗!? 後日、hideから「きみが、突然、苺ポッキーを食べ始めたから、『このまま嫁にも行かず犯罪者になってしまうのはかわいそうだ』と思って、とっさに僕が罪をかぶろうと思ったんだ」といわれ、一瞬感動しかけたのだが、よく聞いたらhideはこの時のことをまったく覚えていなかったのだそうだ。でも、これ、書いちゃっていいのかなぁ。いつもhideが、「人のことばかり書かないで、ちゃんと自分のことも書け!」といってたのを思い出して、一つくらい懺悔しようかなと思ったんだけど(この話は、本当に今までどこにも書いてない)、もう時効だよね……。 |