SHOXX1999年6月号 その2
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なんともセンチメンタルな気分になってヴィレッジを歩いていると、ワシントン・スクエア・ホテルの前に出た。ここは、89年にhideとPATAとTAIJIが初めてNYに来た時、泊まっていたホテルなのだ。ロケーションが抜群にいい割に値段が安いこのホテルは、NY初心者の若者に人気があり、わたしも何回か泊まったことがあった。hideとこのホテルの前を歩いた時に、ひとしきりホテルの話で盛り上がったことを思い出す。なにしろビンボー旅行者向けのホテルだから、部屋は狭くてお世辞にもきれいとはいえない。しかも、hideが泊まった部屋は半地下で道路に面していて、窓には鉄格子がはめてあったというのだ。彼は、自分が泊まっていた部屋の窓の前に来て、「ここだよ、ここ。俺が泊まってたのは!まるで牢獄みたいな部屋だった。窓から外を歩く人の靴が見えて、ものすごく悲しい気分になったよ~」と、大声で嘆いていた。だが、改装してすっかり(外見は)きれいになったワシントン・スクエア・ホテルに、hideが泊まっていた半地下の部屋はなくなっていた。さすがに不評だったのか、半地下の客室スペースは洒落たレストランに変身していたのだ。 |
そのまま、7年前と同じようにウェスト・フォースの地下鉄の駅まで歩き、アップタウン行きの地下鉄に乗ってみる。あの時、なんでタクシーじゃなくて、わざわざ地下鉄に乗ってホテルに戻ったんだっけ。その理由がどうしても思い出せないまま、地下鉄は走り続ける。そういえば、この線じゃなかったけど、地下鉄の中で変な人に遭遇したことがあった。その時、hideは黒い帽子をかぶっていて、その下から真っ赤な髪がちらちら見え、黒いサングラスに黒い革パンというかなり派手な格好をしていた。車内はすいていたので、ちょうど彼はわたしの真正面の席に座っていたのだが、途中の駅でいかにも顔つきの悪いがたいのいい男が乗ってきた。その男はhideの姿を発見すると近くに寄ってきて、大げさにジロジロとhideの顔を覗き込む。その時、hideは仏像のように無表情で、微動だにしなかった。まるで、その男の姿がいっさい目に入っていないようだった。その二人の様子がサイレントのコメディ映画みたいにおかしかったので、わたしたちは吹き出すのをこらえるのに必死だった。 そして、ホームにおりて、地下鉄のドアが閉まった瞬間に、みんなお腹を抱えて大爆笑。でも、当事者のhideは笑うどころじゃなくて、そんなみんなの姿を見て頬を膨らませている。「からまれたら大変だと思って俺は必死だったのに、みんな離れたところで笑ってるなんてあまりにも薄情すぎる!」というのだ。でも、あの場合、どうすることもできないし、とにかくhideのオーバーなくらいの無表情がとびきりおかしかった。あの時のhideのポーカーフェイスがみんなを笑わせるためにわざと作っていたものなのか、本当にビビッて固まっていたものなのか、結局、その謎は解けないままだった。 |
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![]() あちこちさまよったのちにようやくシャンプーの入口を発見して、そっちのクラブに行ってみたのだけれど、なんとここが完璧なゲイ・クラブ!しかも、4階建ての建物のフロアを上がるごとにゲイ度が濃密になっていく。1階には女の子もチラホラいて、ゲイのカップルも健康的だったのに、2階、3階とどんどん隠微な雰囲気になっていくのだ。3階の時点で怖気づいた私たちが、「ねぇ、hideちゃん。もうやめようよ」といったのだが、彼は「イヤ、絶対いちばん上までいく」と逆にズンズン上っていってしまう。果たして、4階はものすごい状態になっていた。いるのは男ばかりで、ムキムキ筋肉を露出している半裸の男とか、鋲のいっぱいついたピッチリとしたレザー・スーツを着ている男とか、とにかく一目見ただけでそちらの世界の方とわかるような人ばかり。なのにhideはまったく平気な顔して、さっさとカウンターにいってビールを注文している。わたしたち女の子陣もその場にいずらかったけど、黒いエナメルの服を着てたHEATHは、同好の士と思われたのか、あちこちから誘いの声(と手)をかけられて、大変だったそう。 |
店を出てから、その場にいたhide以外の男性は、残らず誰かからアプローチを受けていたということが判明した。それを聞いたhideは、「なんで、俺だけ誰からも声をかけられなかったんだぁ?」と複雑な顔をしていたが、あの場所で平然とビールを飲みながら、男たちをジロジロと眺めていた彼に、声をかける強者はさすがにいなかったのだろう。「まぁ、それは当然だよね」とはみんなの一致した意見だったのだが、hide本人だけは最後まで「何でだ?」と首を傾げ続けていた(笑)。 |