MEMORIES

SHOXX2000年10月号 その1

 hideこと松本秀人が横須賀で生まれたのは、1964年12月13日のこと。両親の愛情に育まれ、彼はすくすくと元気に成長する。松本家の長男として生まれた彼に、両親は大きな期待を寄せ、小さい頃から習い事にたくさん通わせたと。習字にそろばん、剣道、空手、英語……。毎日、学校から帰ると必ず何かの習い事に通うという、小学生としてはかなりハードなスケジュールの毎日だった。そんな日々が中学を卒業するまで続くのだが、本人はどの習い事も適当にこなしているだけで、決してのめり込むほど夢中にはならなかったという。また、これだけいろいろな習い事をしながら、なぜか周りの子供たちがみんな通う塾には通っていなかった。両親も「行け」とはいわなかったし、本人も行きたいとは思わなかった。その理由について本人は、「受験をする気なんて最初からなかったし、親もしなくていいっていってたから」といっている。たくさん習い事には通っていたものの、hideの両親は通り一片の英才教育を彼に施していたわけではなく幼い彼の可能性を探る手助けをしていたのであろう。それは、小学4年の夏休みに、一ヶ月間アメリカにhideをホームステイさせたことからもよくわかる(ちなみに、この時に取得したと思われるパスポートが、hideミュージアムに展示されている)。
きっと、アメリカという異国の地で、息子にいろんなものを吸収してもらいたいという親心だったのだろう。だが、hideはこの頃のことを振り返って、「アメリカに行ったことよりも強烈に印象に残っているのは、『アメリカに行くんだから、恥ずかしいことがあっちゃいけない』って、母親に丸坊主にされたこと」だと供述している。「親の心子知らず」というのは世の常であるが、hideもやはりそんなやんちゃな男の子だったのだ。また、一ヶ月間アメリカに行ったことよりも、丸坊主にされたことの印象の方が大きいというのは、彼の周りを盛り上げるためのオーバーな話し振りを差し引いても、後年、ビジュアルにあれほどこだわった彼流のこだわりの片鱗を垣間見るような気がする。
MEMORIES
 小学生時代から自分のビジュアルに人一倍関心を持っていたhideであるが、当時、彼が相当太っていたことはもう有名な話である。その理由は留守がちだった両親が、彼と弟のためにたくさんのおやつと夕食を用意してくれたからであるが、本人にとって「太っている」という事実はかなりのコンプレックスになっていた。彼は、よく太っていた頃のエピソードを、お酒の場を盛り上げるための話題として自ら提供していた。横須賀の小学校時代、太っている子供たちだけが昼休みに校庭に呼び出されて、ランニングをさせられた話。バンドを始めたばかりの頃、ステージ衣装用に買ったタイツがはけなかった話。そんなエピソードを面白おかしく話してくれる彼が、時々、真面目な表情をして、こういった。「なんで自分だけ、こんなに太っているんだろうって、実はひそかに悩んでいた」。Xのhideとして揺るぎない成功を手中にしてからも、彼は夜中に飲んでいる時にあまりものを食べなかった。その理由について、「俺は、昔、太ってたからね。太ってた時に、身体の細胞の数が増えちゃってるから、気をつけないとすぐ元に戻っちゃうんだ」と語っていた。その説の真偽は怪しいものなのだが、彼は頑としてこの説を信じていた。それだけ、「もう二度と太りたくない」という気持ちが、顕著だったということのあらわれなのだと思う。
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