ロックンロール日記
hideのいた風景
SHOXX1999年5月号より その1
 星子編集長から、「もうすぐ一周忌だから、彼との楽しい思い出を綴った原稿を書いてください」という依頼があった時、わたしは条件反射のように「はい、わかりました」と返事をしてしまった。でも、やっぱり書き始めるまでには時間がかかり、既に締め切りはとっくに過ぎてしまっている。ようやくワープロに向かい始めてからも、何回も文字を打っては消し、打っては消しの繰り返し。いやいや、こんなことではいつまでたっても、原稿は書きあがらないぞ。そう思って、「今度こそは」とビール片手に白い画面と向き合った。どこかから、「そんなことばっかやってると、また男にフラれちまうぞ」という憎まれ口が聞こえてきたような気がしたからだ。彼はいっつも私が悩んだり困ったりしていると、そうやって茶化しては笑っていたものだ。それが彼独特の励まし方なのだとわかっていても、面と向かっていわれるたびにわたしは唇をとがらしてむくれていた。 今回の原稿、最初はちょっと真面目なことを書こうかと思っていたけど、やめた、やめた。辛気くさいこと書いてもhideは絶対に喜んでくれないもの。彼はいつもわたしの能天気な文章を、「面白い、面白い」って誉めてくれていたのだから。星子さんのいうとおり、楽しかった思い出を思いつくままに書き綴ることにしよう。そう思ったら、ワープロを打つ手が軽くなってきた。よぉぉぉし、この勢いで一気に書き上げてしまうぞぉ!
MEMORIES
hideいろんなところで書いているとおりhideと最初にどこで出会ったかを私は覚えていない。実は、彼もまったく覚えてなくて、一度二人で「いったいどこで会ったんだっけ?うーむ」とか考え込んで、3秒でやめてしまった記憶がある。当然、その時はお互いに飲んでいたので、一つのテーマについて3秒以上脳を働かすことができなかったのだ。でも、多分、88年頃に目黒の鹿鳴館近辺で会ったことだけは確かである。その頃、hideをはじめとするXのメンバーはいつも鹿鳴館にいて、なんか鹿鳴館の主みたいだった。それで、鹿鳴館に出ているバンドが知り合いであろーとなかろーと関係なく、ライヴが終わると打ち上げに参加して飲んで暴れていた。「Xが通った後にはペンペン草も残らない」というすさまじい噂が公然とささやかれ、わたしも「触らぬ神にたたりなし」と遠くから彼らを見ていたように思う(笑)。

 でも、気がついたらしょっちゅう一緒に飲むようになっていた。あのころはアマチュア・ロックバンドの横の繋がりが密だったので、「友達の友達はみんな友達」ってノリで、一回飲むとすぐみんな仲良くなっていた。わたしはもうライターという仕事を始めていたけど、当時は業界人もミュージシャンも関係なく、気に入れば仲良くなるし、気に入らなければ殴る(?)という非常に単純な人間関係が成立していた。そーいうざっくばらんな、肩書きなんか関係ない自由な空気の真ん中に、彼はいつもいたように思う。 その頃、わたしは彼を、「お見合いトカゲ」というニックネームで呼んでいた。それは、彼がわたしに男を紹介するというイベントを勝手に仕組み、酒の肴にしてよく飲んでいたからだ。居酒屋で飲んでいると、突然、ローディくんを呼び、わたしの前のテーブルの上に(?)立たせて、「きみ、名前は?年令は?趣味は?」と立て続けに質問し、「おねーさま。いかがですか?お気に召していただけましたか?」と、ニヤニヤ。そして、何がなんだかわからなくてびっくりしているローディくんに、「お前、今日は一日、このおねーさまのいうことを何でも聞け。俺の命令だ。」と、いうのだ。まぁ、ハッキリいって大きなお世話だったのだけど(笑)、彼はそうやっていつもの飲みの場を盛り上げる演出を一手に引き受けていた。 こーいう時の彼の口調はまさに立て板に水のごとしで、芝居がかった言い回しといい、まるでプロの司会者みたいに流暢だった。UME(東京ヤンキース)に、「hideさん、お見合い番組の司会でもやったらどうですか」なんて、突っ込まれてhideいたこともあったぐらいだ。でも、考えてみれば、このローディくんオーディションをやってる1時間くらいの間、同じテーブルにいた人たちはみんなhideプロデュースのこのショーを楽しめたわけであり、自然と知らない人同士が仲良くなれていた。彼はただじっと座って静かに飲むのではなく、まわりを巻き込んで楽しくハシャぐのが好きだったのである。
 かといって、彼は誰とでも仲良くなれるタイプでもなかった。Xが人気バンドになって、多くの人が彼らの打ち上げに訪れるようになると、「なんで俺のバンドの打ち上げなのに、俺の知らない人ばっかりなんだよ」と不満そうな顔をしていたこともある。飲み会の席に知らない人がいると、「あの人、誰?なんで、ここにいるの?」と必ず誰かに尋ねていた。でも、ちゃんと紹介されて相手が微笑むと、彼はその百倍の笑顔で相手を迎え入れた。「なんだ、××くんだったの。こっちにおいでよ、一緒に飲もう」人一倍人見知りをするくせに、人一倍人懐こくて友達想い。そんなhideだから、いつも本当にたくさんの友達に囲まれていた。
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MEMORIES
大島暁美のロックンロール日記